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【書評】赤いオーロラの街で 世界中が停電するディザスター小説

赤いオーロラの街で (ハヤカワ文庫JA)

 

 仕事に倦んだプログラマーの香山秀行は、上司の勧めで北海道・知床を訪れる。町の人々から歓迎を受けるが、その夜、空一面に赤いオーロラが発生。街全体が暗闇に包まれる。それは巨大な太陽嵐による、世界停電の始まりだった――未曾有の困難に立ち向かう人びとを描く、第5回ハヤカワSFコンテスト最終候補作。

引用元:赤いオーロラの街で | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

 

もしも世界中が停電したらどうなるのか

 ある日、あてもなくはてなブックマークを眺めていたらこんな投稿がホットエントリーに入ってきた。

anond.hatelabo.jp

 

 要約すると、「若い頃は色々無茶してた人が地元に帰って地域に溶け込んだら楽しくなってきた。良いネタを見つけたので小説を書いてみると、とある文学賞の最終候補まで残って出版されることになった」という内容。

 

 この匿名のエントリーがどうにも気になってしまって検索すると「赤いオーロラの街で」という本に辿りついた。検索すればすぐにわかるように書いてあるけど宣伝としてはなんだかまどろっこしい感じがするし、匿名で書く理由もよくわからない。けれどもこの人の文章に僕は惹かれてしまった。こんな文章を匿名でさらっと書けちゃうようになりたいなと思った。

 作者曰くこの投稿は”反則に限りなく近い販促”らしい。僕はまんまと作者の策にはまってしまったみたいだ。

 

 現在、僕はとんでもない田舎町に住んでいるんだけど、そんな田舎町でも本屋が2軒生き残っている。さっそく本屋に出向いて探してみた。無かった。そもそもハヤカワ文庫の扱いもほとんどなかった。仕方がないので電子書籍化されるまで10日くらい待ってアマゾンでダウンロードした。電気が無かったら本も読めない世の中になっていくのかもしれない。

 

 

感想

 巨大な太陽フレアによって世界中が停電する。世界規模の停電が数年間続く。

 一見、なんとかなるんじゃね? と思ってしまうんだけど、そんなに甘くないんだぜというのがこの作品の醍醐味だ。水はあるだろ、なんて思ったら水は電気で汲み上げられていたり、ガソリンは大丈夫かと思ったら、原油を輸送する船の計器やGPSが使えなかったり、などなど。そんなところにまで電気が、と感心してしまう。

 

 東京は都市機能が低下して人々は食糧のある田舎に移住する。食糧自給率の低い地域では闇市が開かれて物価が急激に上昇する。ただ電気が使えないだけなの、になんとなくゾンビ映画とか隕石墜落とか巨大津波みたいな地球滅亡映画の雰囲気がある。設定だけアメリカに持って行ったらブラッドピット主演で良い感じのB級パニック映画を作ってくれるんじゃないかと思う。

 

 しかし作者は舞台をニューヨークでも東京でもなく北海道の、しかも多分ものすごい田舎に据えた。これでパニック映画的な雰囲気が一気にドキュメンタリーっぽくなった。ゾンビやゴジラに立ち向かっていくのとは違い、起きてしまった災害をどのように受け入れて復興させていくのかに重点を置いた。茶化したり誇張しない分地味なストーリーだけどリアリティが増しているように思う。

 

 そんな世界停電という状況下で、主人公は北海道で復興というか生活の向上のために奔走する。もちろん主人公に特殊な力なんてものは無く、知人のために東京に薬を探しに行くとかそういう地味な活躍をしていく。一人の人間にできることの限界とその葛藤が良い感じだ。本当に何かの役にたっているのかわからないけどとりあえずやってみる精神は見習いたい。

 

 主人公が死にかけるシーンがあるんだけどそこは微妙だった。災害の怖さというよりは単純に主人公の自滅だし、そもそも北海道ならいつでも起こりうる状況に巻き込まれているのでテーマから逸脱しているような気もする。解決方法も結局文明の利器に頼ってしまっているので残念だった。

 それから恋愛に関する描写はサムい感じがした。多分書くの苦手なんだろうなと思った。

 

 太陽嵐についての説明が結構な量で書かれている。こういう説明というのは大抵その読みにくさとか分量の多さでストーリーを阻害してしまうんだけど、この本に関してはそういったこともなくスラスラと読めた気がする。これが文章のうまさというやつか。情報の過不足もなく太陽嵐という災害について正しく理解できたんじゃないかと思う。多分。

 

 作者が書いた匿名のエントリーがもう1つあって

anond.hatelabo.jp

これだけいろいろなことがあっても、自分は一度も死にたいと思ったことがない。

きっと死ななければまたいいことがあると思う

  と結ばれている。

 多分作者はまったく意図していないと思うんだけど、この文言がこの本のテーマに直結している気がしてならない。

 

まとめ

 ドキュメンタリー映画を見ているような気分になる面白い小説だった。早くも作者の次回作に期待してしまうけれど次はあるんだろうか。

 

 登場人物の木島社長って京極夏彦の小説に出てきそうだなぁと思った。

 

 ではまた。

 

赤いオーロラの街で (ハヤカワ文庫JA)

赤いオーロラの街で (ハヤカワ文庫JA)